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解析力学の目的と利点についてざっくり

解析力学の目的と利点

順番通りに物理学の勉強をしていくと,まず始めにNewton力学を習う.このNewton力学は立式が直感的に行うことができ,理解しやすい形ではあるが,場合によっては数学的に扱い辛いことがある.
そこで,このNewton力学を見直し,数学的に見通しの良い形に再構築したものが解析力学である.つまるところ,解析力学とはNewton力学を一般・抽象化したものであると言える.

解析力学の利点を以下に箇条書きしてみた.

  1. 一般座標系で同じ構成の運動方程式(Equation of Motion)を書き下すことができる.
  2. 注目している物理系が持つ対称性や保存則を容易に見出せる.
  3. 多粒子系の解法が見通し良くなる.
(Euler -)Lagrange方程式について

まず定義から.
あるポテンシャル中を多数の質点が運動している.このとき,Lagrangian {L}を以下のように定義する.


{
L({q_i}, {\dot{q_i}}, t) = T - U \tag{1}
}

ここで {T}は系全体の運動エネルギ, {U}はポテンシャルエネルギ, {q_i}は一般化座標( {i = 1,2,3...f})である.
{f}とは質点の自由度で,例えば三次元空間中を {N}個の質点が運動する場合, {N}個全ての質点の位置座標を特定するには3N個の変換が必要になる.よって,その場合は {f = 3N}となる.
ちなみに一般化座標とはデカルト座標ではなくても,例えば極座標や円筒座標などの位置座標を指定する座標一般のことである.
話を戻して,以上の条件にあるとき,質点の運動は自由度 {f}個の方程式,

\displaystyle
{
\frac{d}{dt} (\frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}})  - \frac{\partial L}{\partial q_i} = 0  \tag{2}
}

に従う.この方程式はLagrange方程式と呼ばれる.導出は長くなるためまた別の記事で紹介する.
ここでLagrange方程式はNewtonのEoMと等価である.
これについてはその辺のNewton力学の問題に当てはめると確認がとれるが,折角なので,Lagrange方程式は座標系の取り方に依存しないという武器が活きる条件下で考えてみる.

Lagrange方程式の利点とそれを実感できる具体例

二次元空間中を運動する一つの質点を極座標{(r,\theta)}を考える.
f:id:Orlandu:20180815075431p:plain

ここで,極座標の単位ベクトルは,


{
\vec{e}_r = \cos \theta \vec{e}_x + \sin \theta \vec{e}_y
 \tag{3}
}


{
\vec{e}_\theta = -\sin \theta \vec{e}_x + \cos \theta \vec{e}_y
 \tag{4}
}
と表せる.つまり,極座標の単位ベクトルは{\theta}に依存することがわかる.よって以下の関係式が成り立つ.


\displaystyle
{
\frac{d\vec{e}_r}{d\theta} = -\sin\theta \vec e_x + \cos\theta \vec e_y = e_\theta  \tag{5}
}

\displaystyle
{
\frac{d\vec{e}_\theta}{d\theta} = -\cos\theta \vec e_x - \sin\theta \vec e_y = -e_r  \tag{5}
}

これらの関係を前提として,比較するためにNewtonのEoMから考える.ちなみに私はなんてことのない計算で躓く人間なので計算過程は細かく記述する.
NewtonのEoMは


{
m\vec a = \vec F \tag{6}
}

である.ここで,位置ベクトル,速度ベクトル,加速度ベクトル,質点に働く力ベクトルを導き,これらを式(6)に代入することでEoMが求められる.もう既にめんどくさい
ひたすらに微分していく.位置ベクトル{\vec r}は,


{
\vec r = r \vec e_r
 \tag{7}
}

より,速度ベクトル{\vec v}は,

\displaystyle
{
\vec v = \frac{d\vec r}{dt} =  \frac{dr}{dt}\vec e_r + r \frac{d\vec e_r}{dt} =  \frac{dr}{dt}\vec e_r + r \frac{d\theta}{dt} \frac{d\vec e_r}{d\theta} = \dot r \vec e_r + r\dot \theta \vec e_\theta
 \tag{8}
}

ここで,式(5)を用いることができるように変形している.まだ面倒ではないな
さらに加速度ベクトル{\vec a}を求める.

\displaystyle
{\begin{align}
\vec a = \frac{d\vec v}{dt} &=  \frac{d\dot r}{dt}\vec e_r + \dot r \frac{d\vec e_r}{dt} + \frac{d(r\dot \theta)}{dt}\vec e_\theta + r\dot \theta \frac{d\vec e_\theta}{dt} \\ 
&= \frac{d\dot r}{dt} \vec e_r + \dot r \frac{d\theta}{dt}\frac{d\vec e_r}{d\theta} + \frac{d(r\dot\theta)}{dt}\vec e_\theta +r\dot\theta \frac{d\theta}{dt}\frac{d\vec e_\theta}{d\theta} \\
&= (\ddot r - r\dot\theta ^2)\vec e_r + (2\dot r \dot\theta + r\ddot\theta)\vec e_\theta
 \tag{9}
\end{align}
}

式構造や変形は速度ベクトルを求めたときとほとんど変わらない.
次に質点にはたらく力ベクトル{\vec F}を求める.質点のポテンシャルに-gradをとれば求まるから,

\displaystyle
{
\vec F = -\vec \bigtriangledown U = - (\vec e_r \frac{\partial U}{\partial r } + \vec e_\theta \frac{1}{r}\frac{\partial U}{\partial \theta}) 
 \tag{10}
}

となる.ここで極座標の公式{\vec \bigtriangledown} = (\vec e_r \frac{\partial }{\partial r } + \vec e_\theta \frac{1}{r}\frac{\partial }{\partial \theta})  を用いた.この式の導出は,デカルト座標
単位ベクトルをそれぞれ{r,\theta}で記述して,gradの定義通りに計算すると導くことができる.
さて,これで必要なものが揃ったのでNewtonのEoMにそれぞれを代入してようやくおしまいである.

\displaystyle
{
m(\ddot r - r\dot\theta ^2)  = - \frac{\partial U}{\partial r }
 \tag{11}
}

\displaystyle
{
m(2\dot r \dot\theta + r\ddot\theta)  = -\frac{1}{r}\frac{\partial U}{\partial \theta}
 \tag{12}
}

これがNewtonのEoMである.なかなか面倒であるし,式を見てもEoMかどうか判別しづらい.そこで,先ほど定義したLargrange方程式を用いてみる.

Lagrange方程式

まず,運動エネルギ{T}と,ポテンシャルエネルギ{U}を求める.運動エネルギ{T}は,

\displaystyle
{
T = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}m(v_r^2+v_\theta^2) = \frac{1}{2}m(\dot r^2 + r^2\dot \theta^2)
 \tag{13}
}
である.ここで,式(8)を用いた.ポテンシャルエネルギは{U(r,\theta)}であるからそれぞれを式(1)に代入してLagrangianを求めると,


{
L = T - U = \frac{1}{2}m(\dot r^2 + r^2\dot \theta^2) - U(r,\theta)
\tag{14}
}
となる.Lagrange方程式の定義に則り式変形をおこなう.自由度{f}は2であるから,Lagrange方程式は二つの方程式となる.


\displaystyle
{
\frac{d}{dt} (\frac{\partial L}{\partial \dot r})  - \frac{\partial L}{\partial r} = 0  
\tag{15}
}
より,

\displaystyle
{
m\ddot r - mr\dot\theta ^2  = - \frac{\partial U}{\partial r }
 \tag{16}
}
である.確かにNewtonのEoM式(11)と一致する.
同様の方法で,\displaystyle{\frac{d}{dt} (\frac{\partial L}{\partial \dot \theta})  - \frac{\partial L}{\partial \theta} = 0  }を計算すると,

\displaystyle
{
mr(2\dot r \dot\theta + r\ddot\theta)  = -\frac{\partial U}{\partial \theta}
 \tag{17}
}
となり,これもまたNewtonのEoM式(12)と一致する.スゲー.

ご覧のように,Lagrange方程式はNewtonのEoMと比較して導出が非常に単純で数学表現がすっきりとしていることがわかる.ありがとうLagrange.

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極座標のベクトル演算子の話やLagrange方程式の導出などはまた別のタイミングでやりましょう.
与太話ではあるが,解析力学はいまいちその目的がわからない上に,突然Lagrangianが出てきてそこからHamiltonianというさらにわけのわからないものが出てくるのでいまいち取り組みづらいものだと思う.が,量子力学統計力学で必須の知識であるのでしっかりやっておくと良い.私は怠けたが